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名古屋高等裁判所 昭和32年(ラ)31号 決定

抗告人 山本照雄(仮名)

相手方 東山ます(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は原審判を取消し、相手方の申立を棄却する旨の裁判を求めた。

抗告理由は別紙記載の通り。

按ずるに本件記録添付の津家庭裁判所昭和三十一年(家)第四九号遺言執行者選任審判事件につき同裁判所が同年三月十二日なした審判の謄本、遺言処分の覚書、同検認書写、原告大林蔵三遺言執行者抗告人、被告奥山健一間の土地所有権移転登記手続履行の意思表示請求の訴状、同訴の取下書、原告右同抗告人、被告森田誠二間の所有権確認並に所有権保存登記の抹消登記手続履行請求の訴状、同訴の取下書の各写及び当審における相手方並に抗告人(一部)の各供述によれば抗告人は昭和三十一年三月十二日津家庭裁判所上野支部において、昭和三十年八月五日死亡した大林蔵三の遺言の執行者に選任せられ、大林蔵三の所有にかかる相手方居住家屋同敷地所有権を相手方に贈与する旨の遺言の執行に必要なる行為として、右各不動産の所有権を主張していた奥山健一、大林蔵三の親戚筋に当る森田盛一を夫れ夫れ被告として前記各訴訟を提起し、これが所要の訴訟費用等は相手方に工面出捐せしめて右各訴訟進行中その任務遂行の困難にも堪え兼ねると共に右遺言者の意思の実現を拒まんとする右奥山健一、森田誠二、福田正等より金五万円の供与を受けてこれを迎合し、同人等と共に老齡病弱なる女性の相手方を或は脅し、或はだまして遺言者の意思の実現を期待する相手方の意思をも蹂躙し相手方不知の間に右森田誠二、奥山健一、福田正等との間に、右贈与家屋が森田誠二の、同敷地部分が右福田正の各所有に属することを確認し、同人等より相手方に僅々金二十万円、抗告人に前記金五万円を給付し相手方をして右家屋より退去せしむべき旨の相手方に著しく不利なる内容をもつた示談をなしたりとなして前記各訴の取下をなし、右森田誠二、福田正等の不当なる意図の達成に寄与し以つて右遺言者の意思の実現を図るべき遺言執行者としての任務に全く違背した事実が認められる。抗告人の右供述中抗告人の右所為は専ら相手方の利益を考慮してなされたとの供述部分その他右認定に反する部分は右相手方の供述に対比して措信し難く、他に右認定を覆えして、右遺言が抗告人所説のごとく公序良俗に反する無効のものである事実も、抗告人に右遺言執行者としての任務の遂行に過誤のなかつた事実もこれを認めるに足るべき証拠はなく、又遺言執行者は法律上相続人の代理人と看做されるのであるが、之れは単に遺言執行者のなす遺言執行の効果が、相続人を拘束すべき趣旨に止まり遺言執行者は相続人の意に迎合して受遺者の遺言による利益を無視し遺言者の意思の実現を阻止するがごとき所為の許されないことは当然のことに属する。よつて抗告人は右遺言執行者としての任務に違背した廉ありとして相手方の申立を容れ抗告人の右遺言執行者たることを解任した原決定は相当で、本件抗告は理由のないことが明らかであるので、これを棄却し、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二十五条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条によつて主文のように決定する。

(裁判長裁判官 山田市平 裁判官 県宏 裁判官 小沢三朗)

(別紙抗告理由書 略)

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